会計コラム 「キャッシュ・フロー情報の活用」

最近、キャッシュ・フロー情報についての再検討をされている企業が多くなってきています。
といっても、開示される(連結)キャッシュ・フロー計算書そのものの変更ではありません。
管理会計情報として、キャッシュ・フロー情報を使えないかという議論が再燃しているのです。
現状、キャッシュ・フロー計算書の情報は、単に「開示用」に用いられるのみであり、「管理用」(経営用)にも用いている企業はそう多くありません。非上場企業であれば、「開示用」のキャッシュ・フロー計算書がそもそも求められていないために、キャッシュ・フロー計算書を作成していないというケースも多くあります。
しかし、巷で「財務3表」という表現がはやる通り、貸借対照表・損益計算書と並んで、キャッシュ・フロー情報は重要な情報です。「キャッシュ・フローが潤沢でなければ企業の存続すら危うい」という意見をよく聞きますが、それは少々オーバーな表現であるとしても、キャッシュ・フローが潤沢でなければ次のアクションの制約が増えるのみです。
最近、内部統制やコンプライアンスなど「企業活動の制約」は増える一方ですが、最大の制約になるのは、キャッシュの欠乏です。
キャッシュは企業にとって「武器」になるとともに「制約」にもなるものですから、キャッシュ・フロー情報が重要になるのは当然でしょう。
このような動向を受けて、キャッシュ・フロー情報の活用に話を進めたいところではありますが、「ふつうの説明」では物足りないかもしれません。そこで、今回は今までとはうって変わってクイズ形式です。
まず、次のJ社の2012年3月期の決算データをご覧ください。

さて、このデータから「予想されること」として正しいものはどれでしょうか。
① 今後、減価償却費が増加し、利益を圧迫する可能性が高い。
② 今後、支払利息が増加し、利益を圧迫する可能性が高い。
③ 将来的には、法人税等の負担が増加する可能性が高い。
④ 当期は投資有価証券の益出し・売却収入が多く、今後はそのような余力がないため、利益やキャッシュ・フローが減少する可能性が高い。
⑤ 当期は多額の補助金の受け取りがあるが、今後はそのような補助金は見込まれないため、利益やキャッシュ・フローが減少する可能性が高い。

少々簡単過ぎたでしょうか。お気づきかもしれませんが、今回確認して頂きたかったのは、「将来への影響の確認」です。データの中に、営業活動によるキャッシュ・フローの具体的な内訳や、連結貸借対照表の情報があれば、さらに運転資本に関する分析も可能です。基本的に、過去実績の情報を作成するのが財務会計の役割ですが、経営情報という意味で、キャッシュ・フロー情報を見直していただければと思います。

※ クイズの解答
① 正しい。
投資活動によるキャッシュ・フローが大きくマイナスの場合、設備投資が行われていることが予想できます。もちろん、現金同等物に該当しない定期預金の預け入れや、投資有価証券の取得など、他の可能性も考えられますが、設備投資が行われているのであれば、減価償却費が増加する可能性が高いと考えられます。

② 誤り。
財務活動によるキャッシュ・フローが大きくマイナスの場合、借入金を返済していることが予想できます。もちろん、配当金の支払いによってマイナスになることもありますが、借入金の返済が大きいなら、将来の支払利息は減少することになります。

③ 正しい。
(連結)損益計算書の税金等調整前当期純利益と当期純利益がそれほどかわっておらず、また、(連結)キャッシュ・フロー計算書において、小計欄の額と営業活動によるキャッシュ・フローも大差ありません。これは、税金が小さいことを示している可能性が高く、繰越欠損金があるなどの理由により、当期の税負担が小さいことを示しています(同時に、繰延税金資産を認識できない状態にあることも予想されます)。将来的に、繰越欠損金がなくなる等の理由により、税負担は増大することが予想されます。

④ 誤り。
特別利益が大きくないと予想されること、それから、投資活動によるキャッシュ・フローがマイナスであること(厳密には、特別利益の内訳や投資活動によるキャッシュ・フローの内訳の情報が必要です)から、投資有価証券の売却益や売却収入は小さいものと予想されます。

⑤ 誤り。
(連結)キャッシュ・フロー計算書の小計欄の金額と営業活動によるキャッシュ・フローがそれほど変わらないことから、法人税等の支払額が小さいか、あるいは、何らかの臨時的な収入があることが予想されます。しかし、(連結)損益計算書の特別利益が小さいと予想される(こちらも、厳密には内訳の情報が必要です)ことから、補助金による特別利益・収入額が大きい可能性は低いと考えられます。

なお、④と⑤については、自社のことであれば、このような推測をしなくとも容易に把握可能と思われます。ただし、連結グループではどうでしょうか。子会社が多い場合など、連結ベースでの数字の把握は意外に難しいものです。
今回の例はシンプルなものではありますが、連結ベースでも個別ベースでも、「数字の予想」は経営者・管理者に必要な能力です。経理部の方々だけが理解可能というのではなく、多くの経営者・管理者の方々に慣れて頂きたい内容です。

公認会計士・税理士 清松 敏雄

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